Wednesday, Apr 30

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イスラエル軍のガザ攻撃、米欧よそに「虐殺」断罪 アパルトヘイト撤廃の南アフリカ提訴、反戦旗手に

2024年1月25日

パレスチナ自治区ガザ情勢をめぐり、かつてアパルトヘイト (人種隔離) 撤廃に成功した南アフリカが反戦陣営の旗手となりつつある。

親イスラエルの米欧が歯切れ悪い対応に終始するのをよそに、イスラエル軍のガザ攻撃を「ジェノサイド (民族大量虐殺)に当たる」と断罪。

南アの提訴を受けた国際司法裁判所 (International Court of Justice = ICJ) は1月26日、軍事作戦停止の暫定措置 (仮処分) を出した。

 

▽遺志

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラ。

自治政府が拠点を置く都市のロータリーには、拳 (こぶし) を掲げた南アの故ネルソン・マンデラ元大統領の像が立っている。

6メートル級の像は南アの最大都市ヨハネスブルクが2016年に贈ったものだ。


ICJで南ア代表の口頭弁論が行われた1月11日には、南アへの謝意を示そうと像の周辺に多数の市民が集まった。

近所の公務員 (34) は「パレスチナに寄り添ってくれる南アの友情に感激した」と語った。


20世紀、アパルトヘイトで抑圧された南アの黒人社会は、イスラエルの占領政策に抵抗するパレスチナ人の解放運動と連帯してきた。

アパルトヘイト撤廃後の1997年、マンデラ氏は演説で「パレスチナ人の自由がなければ我々の自由は不完全だ」と言い切り、改めて協力を表明した。


ICJでの口頭弁論終了後、南アのラマポーザ大統領は与党アフリカ民族会議 (African National Congress = ANC) の大会で、南アには「(ガザでの) ジェノサイドを終わらせる責任がある」と宣言。

アパルトヘイト後の国家の象徴、マンデラ氏の遺志を聴衆に呼び起こさせた。

 

▽勇気

マンデラ氏は2013年に死去し、同氏がかつて率いたAMCは退潮が著しい。

ラマポーザ氏には、反イスラエルで結束して党勢回復を図りたいとの思惑も滲 (にじ) む。

それでも、ラマラのイーサ・カシス市長は「米国の不興を買うことが明白な提訴を実行した南ア指導者たちの勇気は、誰も否定できない」と強調する。


ICJ訴訟で南アは「世界の親パレスチナ活動家から称賛を得た」(ニューヨーク・タイムズ紙)。

バングラデシュやナミビア、スロベニアなど非アラブ圏の国家からも賛同が集まる。


ICJが発表した暫定措置の仮処分について、カシス氏は歓迎の意を表明。

「国際社会の公式な場で、ガザの惨状を『ジェノサイド』と口にできる雰囲気を作り出しただけでも、南アの提訴には大きな意義がある」と評価している。

 

(2024年2月16日号掲載)

トランプ氏怒濤の勢い、不安要素は無党派離れ バイデン氏にUAW推薦の追い風、再対決公算大

2024年1月24日

11月の大統領選の共和党候補指名争いで、第2戦ニューハンプシャー州予備選が1月に投開票された。

トランプ前大統領 (77) がヘイリー元国連大使 (52) との一騎打ちを制し、初戦のアイオワ州党員集会に続き連勝した。

指名獲得に大きく前進し、本選で民主党のバイデン大統領 (81) との再対決になる公算が大きくなった。

議会襲撃事件での起訴を逆手に取って保守派を結集。

怒濤 (どとう) の勢いを見せるトランプ氏。

ただ、共和党穏健派や無党派の支持離れが目立ち、11月の本選へ不安も残している。


一方で、11月の大統領選で再選を目指すバイデン氏は1月24日、全米自動車労働組合 (UAW) の推薦を得た。

北米自動車業界を代表する大規模労組の支持を固め、選挙戦で追い風となりそう。

 

 ▽天王山

「彼女には、ひどい夜になったね」。

ニューハンプシャー州の予備選に勝利したトランプ氏は支持者を前に勝ち誇った笑みを浮かべた。

一騎打ちの末、敗れたヘイリー氏は共和党穏健派や無党派が比較的多い同州の予備選を天王山と位置付け、勝負を懸けていた。


「国民はトランプとバイデンの再対決を望まない」と世代交代を要求。

大富豪チャールズ・コーク氏傘下の政治団体の支持を受け、トランプ陣営の2倍近い2,900万ドル (約43億円) を投入していた。


地元で人気のスヌヌ・ニューハンプシャー州知事 (49) の推薦も得て小規模集会を重ね、前回大統領選で不正があったと陰謀論を唱えるトランプ氏を嫌う無党派に支持を広げた。

だが、米メディアは投票終了直後にトランプ氏の当確を報道。

差を見せつけられた。


ヘイリー氏にとって最大の誤算は、予備選2日前のデサンティス・フロリダ州知事 (45) の撤退だった。

デサンティス氏ら保守派候補が、トランプ氏と票を奪い合う――。

思い描いた戦略はライバルの退場で瓦解 (がかい) した。


ヘイリー氏が唯一の対抗馬になると、トランプ氏はなり振り構わぬ中傷キャンペーンを展開。

「極左と民主党がヘイリーを支えている」。

インド系のヘイリー氏が生まれた際、両親に米市民権がなかったため大統領選出馬資格もないと、根拠なく主張した。

 

 ▽破壊

「ヘイリーはトランプほどタフじゃない」。

トランプ氏の選挙集会に参加した支持者は、南部国境で移民流入を許し、インフレを悪化させたとして、バイデン政権への不満を口々に語る。

候補選びの尺度は現状を打破する「強さ」だ。


トランプ氏が当選した2016年大統領選ほどの熱狂はなく、物議を醸す言動を全て支持するわけでもない。

だが「米国第一」を貫いたトランプ前政権は「バイデン政権よりずっと良かった」との評価はブレない。


先月、氷点下のニューハンプシャー州ラコニアでトランプ氏の集会に入るため、2時間待ち続けた男性エンジニア (62) は「弱者に寄り添う」など、綺麗 (きれい) ごとを並べ立てているとしてバイデン氏に憤る。

「トランプ氏は米国の自由を守っている」。

白い息を吐きながら語った。


一方、無党派の女性看護師 (65) は、トランプ氏が返り咲けば「欧州に移住する」と嫌悪感を露 (あら) わにした。

トランプ氏は前回大統領選の接戦州で、共和党穏健派や無党派の支持を欠き、敗北した苦い経験もある。

 

(2024年2月16日号掲載)

紛争、格差・・・課題山積の2024年大統領選 テクノロジー進化、求められる情報見極める力

2024年1月15日

大統領選まで約300日

結果は紛争や格差など課題が山積する国際社会に大きな影響を与えるため、再選を目指す民主党現職のバイデン大統領と共和党候補指名争いで優位に立つトランプ前大統領の一挙一動が耳目を集める。

論壇各誌では米国の現状を分析する論考が目についた。


* * * * *


九州大名誉教授の菅英輝 (かん・ひでき) は「『ふたつの戦争』と米国の世界戦略」 (『世界』
2024年1月号) で、ロシアのウクライナ侵攻 (2.24戦争) と、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配
するイスラム組織ハマスの、イスラエルに対する奇襲攻撃 (10.7戦争) を「ふたつの戦争」と位置
づけた。


2.24戦争では対ロシア制裁を、10.7戦争ではイスラエル支持を表明している米国

菅はこれに米中対立も加えて「三正面」という表現を用い、「米国の資源には限りがある」「三正面に対処する能力があるか否かが問われる
事態
」とする。


* * * * *

バイデン政権下では日本への「さらなる役割分担要求が強まる」一方、大統領選でトランプ氏が再選された場合「米国第一主義」の復活で日米同盟などを揺るがすディール外交が展開され、日本は「『見捨てられ』の危険にも対処しなければならない」とし、日本が取るべき姿勢を問う。


『表現者クライテリオン』 (2024年1月号) の特集「政治と宗教を問う」ではトランプ前大統領を支持する白人プロテスタント信者である福音派について、関西大客員教授の会田弘継 (あいだ・ひろつぐ) が論考「福音派はなぜ政治を動かせるのか」を寄せて歴史を辿 (たど) り、その理由を分析。


「『クリスチャンナショナリズム (Christian Nationalism)』の名を付され、主要メディアから厳しい非難を浴びている」が、ハーバード大教授 (国際政治学) のサミュエルハンティントンらの言葉を用いながら「現在起きている福音派の右派的動きの背後から、革命的進歩が生み出されないとは言い切れない」とまとめた。


* * * * *


『中央公論』 (2024年1月号) で上智大教授の前嶋和弘 (まえしま・かずひろ) は「分断とフェイクに揺れるアメリカ大統領選挙」と題し、「2024年は選挙広告に生成AIが初めて本格的に利用される『生成AI選挙元年』となる」と予測。

2016年大統領選よりもさらに激しい情報戦』が繰り広げられるだろう」とみる。


前嶋によると、2021年1月に、バイデン勝利の結果確定を阻止しようとしたトランプ支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件後、米国では偽情報対策に着手してきたが、その規制は後退を続けている

「SNS規制そのものに対し、トランプや支持者は『保守派への言論弾圧』と徹底的に否定する」からだという。


前嶋は「情報が正しくなければ、民主主義そのものが揺らいでいく」と警告する。

テクノロジーの進化は果たして社会の安定に寄与しているのか

発信側、受け手側が共に情報を見極める力が重要になる。

複雑化する世界情勢の中、米国の舵 (かじ) 取りの担い手が誰になるのか、国際社会が固唾 (かたず) を呑 (の) んで推移を見守っている。


(文中敬称略)



(2024年2月1日号掲載)

米政府、台湾「独立支持せず」 頼清徳氏当選で対中配慮 

2024年1月14日

台湾総統選で中国が独立派と見なす民主進歩党 (民進党) の 頼清徳 (らい・せいとく) 氏が当選したことを受け、バイデン大統領は1月13日「私たちは独立を支持しない」と記者団に発言した。

米中関係安定化に配慮したとみられる。

一方、中国政府は同日、頼氏当選に反発し「台湾は中国の一部」として統一を目指す立場を改めて
強調した。

習近平 (しゅう・きんぺい) 指導部は外交や軍事、経済の分野で民進党政権に圧力をかけ続ける構えだ。


また、在日中国大使館は14日、上川陽子 (かみかわ・ようこ) 外相が頼氏に祝意を示したことに「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。


中国外務省は頼氏当選に対して、中国と台湾は不可分だとする「一つの中国」原則を改めて主張し「台湾独立には反対する」と牽 (けん) 制。

「台湾問題は中国の内政だ」と指摘し、国家統一は「正義」だと強調した。


中国政府で台湾政策を担う台湾事務弁公室も「民進党は台湾の主流な民意を代表しているわけではない」と不満を表明。

台湾との関係を強める米国を念頭に「外部勢力の干渉には断固として反対する」とも表明した。


習国家主席は「祖国統一は歴史的必然だ」として台湾統一を目指している。

軍事演習の実施や貿易優遇措置の一部停止などで民進党に圧力を加えてきた。


 一方、米政府は台湾について、独立でも統一でもない現状維持が望ましいとの立場だ。


台湾総統選は対中政策が争点となり、現職の台湾副総統である頼氏が、対中融和路線の最大野党、国民党の候補らを破って当選した。



(2024年2月1日号掲載)

「CES」で新製品発表、AI 対応半導体投入の新車 ソニー・ホンダと MS 提携、開発中の EV「AFEELA」にも


2024年1月13日

1月9日~12日にラスベガスで開催された世界最大級家電IT見本市CES」では、先端技術を搭載した家電や自動車のほか、製品やサービスの機能を支える半導体分野でも人工知能 (AI) に関する展示や発表が相次いだ。

米半導体大手インテルAIに対応した半導体自動車向けに投入する計画を発表。

利用者の指示で文章や画像、音声を作り出す生成AIブームを背景に、半導体各社の間でAI対応の
競争が激化
している。



*  *  *  *  *

家電分野では、パソコンでAIが効率的に処理できるようになる半導体を開発したインテルが、この技術を車に適応させることで、音声アシスタントや車内でのビデオ会議がスムーズに行えるようになると発表。

車載半導体分野で競合関係にあるクアルコム (本社:サンディエゴ) などに対抗する考えを明らかにした。


このほか、米エヌビディアはCESの一般公開に先立つ1月8日にパソコン用の画像処理半導体 (GPU) の新製品を発表した。

高精細な画像などの処理が速くなることで、これまで主にデータセンターで利用されてきた生成AIをパソコン上でもスムーズに操作できるようになる。




*  *  *  *  *

自動車では、ソニーとホンダの共同出資会社ソニーホンダモビリティ (本社:東京) が1月8日、マイクロソフト (MS) と提携し、AIを使った対話機能を開発中のEVAFEELA (アフィーラ)」に導入すると発表した。


ドイツのフォルクスワーゲン (VW) が同日、チャットGPTを多くの市販車に搭載すると明らかにしており、対話型AIの自動車への導入競争が始まった。

CESで行われたソニーグループのメディア向け発表会で明らかにした。


自動車メーカーはこれまでも音声でエアコン操作や交通情報の取得などができる音声認識機能を搭載してきたが、生成AIにより、複雑な質問に答えられるようになる。


ソニー・ホンダはMSが提携する米新興企業オープンAIの言語モデルを活用して開発する方針。

アフィーラは2025年前半に先行受注を始め、納車は北米で2026年春、日本で2026年中の計画だという。

生産は北米のホンダ工場を予定している。


公開された新しい試作車はサイドミラーが付くなど、初代の試作車に比べて実用化に向けたデザインになっている。


他に、ドイツのメルセデスベンツグループも米国でチャットGPTを一部車両に試験的に組み込むと明らかにしている。


生成AIをめぐっては、同意なく個人情報が収集されるのではといった懸念も根強い。

MSは発表会で「モビリティーにおいて顧客データの安心・安全は最優先事項だ」と強調し、VWも「質問や回答などのデータはすぐ削除される」と述べた。



*Picture:© RYO Alexandre / shutterstock.com


(2024年2月1日号掲載)

『君たちはどう生きるか』 G グローブ賞 アニメ部門、アカデミー前哨戦


2024年1月8日

アカデミー賞の前哨戦と位置付けられる映画賞「第81回 ゴールデングローブ賞」の発表・授賞式が1月7日にビバリーヒルズで開かれ、宮崎駿 (みやざき・はやお) 監督の長編アニメ映画『君たちはどう生きるか』がアニメ映画賞を受賞した。

2007年に設けられた同賞を日本人監督作が受賞するのは初めて


3月のアカデミー賞ノミネートへの可能性に注目が集まる。

宮崎監督作では『千と千尋の神隠し』が2003年に同賞長編アニメ賞を獲得した。


宮崎監督は授賞式に姿を見せなかった。

『君たちはどう生きるか』を製作したスタジオジブリの鈴木敏夫 (すずき・としお) プロデューサーは「本当にうれしく思う」との談話を発表。

能登半島地震の被災地の痛ましい状況に触れて「少しでも笑顔を届けられたら」と述べた。


作品の舞台は戦時中の日本で、主人公は火災で母親を亡くした少年。

父親の再婚相手となる女性が行方不明となって捜す中、アオサギの案内で不思議な世界に迷い込むストーリーだ。


作曲賞には『君たちはどう生きるか』の音楽を手がけた作曲家の久石譲 (ひさいし・じょう) さんがノミネートされていたが、受賞は逃した。


作品賞は、ドラマ部門が原爆開発を主導した米物理学者の伝記映画『オッペンハイマー』、ミュージカル・コメディー部門はベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作『哀れなるものたち』が受賞。

新設の「興行成績賞」はバービー人形が題材の「バービー」が獲得した。


マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』に出演した米先住民出身の俳優リリー・グラッドストーンさんは、ドラマ部門の主演女優賞に輝いた。

米映画誌によると、先住民出身の俳優がゴールデン・グローブ賞を手にするのは初めて。


アニメ映画賞には、新海誠 (しんかい・まこと) 監督の『すずめの戸締まり』と、日米合作の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』もノミネートされていた。



*Picture:© Gil C / shutterstock.com



(2024年2月1日号掲載)

バイデン氏攻勢、景気堅調も実感薄く Bidenomics に冷淡な米国市民

2024年1月1日

米国民の間で、堅調な景気への実感が広がっていない。

今年11月の大統領選で再選を目指す民主党の バイデン大統領 (81) は、統計の数字を示しながら
経済回復をアピールするが、生活苦に喘 (あえ) ぐ市民は「ウソだ」と冷淡な反応を示す。

楽観的な展望を語る共和党のトランプ前大統領 (77) が返り咲くことへの待望論も根強い。



▽再三の訪問

「私はマイノリティーのビジネスを最優先にする」。

年末の12月20日、激戦が予想される中西部ウィスコンシン州の最大都市ミルウォーキーの黒人商工会議所。

人種差別的な言動が目立つトランプ氏との違いを熱弁するバイデン氏に、百数十人の聴衆が拍手を送った。


傍 (かたわ) らには中間層重視の経済政策「バイデノミクス (Bidenomics)」の看板。

物価上昇率は新型コロナウイルス禍後のピークの9%台から3%台まで縮小し、失業率低水準が続いている。

バイデン氏の同州訪問は今年3回目。

実績を訴え、支持層である黒人などの票固めを狙う。


「前向きな変化の兆しが出てきた」。

黒人で不動産業を営む30歳の男性は人種格差の是正を掲げ、黒人経営の小規模事業者向けの融資を推進するバイデン氏の姿勢を歓迎する。



▽日々凌 (しの) げず

ただ、ラストベルト (Rust Belt錆びた工業地帯) の一角を占め、中南米系を除く白人が約8割を占めるウィスコンシン州の有権者に、バイデン氏の主張を額面通りに受け取る声は少ない。


「全部でたらめだ。何もかもが悪化している」。

73歳になる元製鉄工場員の白人は憤る。

額に汗して長年働いたが、物価高騰の煽 (あお) りで毎月の年金はすぐ生活費に消える。

中南米からの不法移民が自身の生活を圧迫している気もしてならない。

経済・外交両面で「米国第一」を唱え、共和党候補指名争いを独走するトランプ氏に票を投じると言い切った。



▽決定打

ウィスコンシン州は民主党と共和党の勢力が拮抗 (きっこう) するスイングステート (swing state揺れる州) と呼ばれ、2016年にはトランプ氏が民主党候補のクリントン元国務長官に0.77ポイント差で辛勝。

2020年はバイデン氏がトランプ氏に0.63ポイント差で競り勝った。

バイデン氏にとっては死守したい土地だ。


政治サイト、リアル・クリア・ポリティクス (RealClearPolitics=RCP) の調査によると、トランプ氏とバイデン氏の直接対決になった場合、同州での平均支持率は45.8%で並んだ。

共和党は今年7月にミルウォーキーで党大会を開く。

票の掘り起こしが進む可能性もある。

「社会正義や世界平和も大事だけれど、まずは自分のことだ」。

無党派で今回はトランプ氏に靡 (なび) いている自動車修理工の35歳の白人は、暮らしに直結する景気動向投票の決定打だと語った。


*写真は、ラストベルトの一部ペンシルベニア州で開催されたアメリカ労働総同盟・産業別組合会議 (AFL-CIO) の「トライステート・レイバー・デー・パレード (Tri-State Labor Day Parade)」でスピーチするバイデン大統領 (2023年9月4日=フィラデルフィア)


*Picture:© OoogImages / shutterstock.com



(2024年1月16日号掲載)

トランプ氏の司法判断焦点、出馬資格めぐり選挙戦左右も 憲法修正第14条第3項「反乱加担者は官職に就けない」


2024年1月1日

今年の大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領刑事民事訴訟で、連邦最高裁の判断が焦点となっている。

州予備選の出馬資格の有無や、議会襲撃事件での大統領免責特権適用の是非に関する判断が示されれば、選挙戦を左右する可能性がある。


1月15日に開かれる共和党候補指名争いの初戦、アイオワ州党員集会まで2週間余り。

政策論争は低調で、支持率で独走するトランプ氏の法廷闘争に注目が集まる異例の事態となって
いる。


トランプ氏は2020年大統領選の敗北を覆そうと画策し、支持者を煽 (あお) って2021年の議会襲撃を引き起こしたとして起訴された。

コロラド州最高裁は12月19日、反乱に加わった者は官職に就けないと規定する憲法修正第14条第3項適用されるとして、トランプ氏は州予備選に出馬できないと判断した。


「私は反乱者ではない! ペテン師のバイデンこそが反乱者だ」。

トランプ氏は1月21日、反乱に関与したとの判断は間違いだと自身のソーシャルメディアで訴えた。

徹底抗戦の姿勢を示し、支持率はさらに上昇した。


メイン州のシーナベローズ州務長官 (民主党) も12月28日、同様の理由で同州予備選の出馬資格剝奪を発表した。

ベローズ氏は「トランプ氏は選挙に不正があったとの虚偽の主張で支持者を焚 (た) き付けた」と結論づけた。


トランプ氏陣営は声明で「選挙を盗み、米国の有権者の権利を奪おうとしている」と反論。

今回の措置には共和党だけでなく民主党からも疑問視する声が上がり、メイン州選出のジャード・ゴールデン下院議員 (民主党) は声明で「米国は法治国家であり、有罪になるまでは投票用紙に残すべきだ」と指摘した。


トランプ氏の立候補資格剝奪を求めた他の訴訟では、ミネソタ州最高裁ミシガン州最高裁請求を棄却

コロラド、メイン両州の判断の是非は、最終的に連邦最高裁に委ねられるとみられる。


議会襲撃事件を担当するジャックスミス特別検察官は連邦最高裁に対し、大統領の免責特権適用の是非に関する審理を急ぐよう重ねて要求したが、連邦最高裁は高裁の審理を待って判断する方針だ。

3月4日ワシントンDCの連邦地裁で予定される初公判を前に、駆け引きが激化している。


トランプ氏は在任中、連邦最高裁に保守派判事3人を送り込んでおり、自身に有利な判断を示すことを期待しているようだ。


▪︎アメリカ合衆国憲法修正第14条第3項 [条文]:連邦議会の議員合衆国の公務員州議会の議員、または州執行部もしくは司法部の官職にある者として、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら、その後、合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者は、連邦議会の上院および下院の議員、大統領および副大統領の選挙人、文官、武官を問わず、合衆国または各州官職に就くことはできない。*但し、連邦議会各々の院の2/3の投票によって、かかる資格障害を除去することができる。



*Picture:© spatuletail / shutterstock.com



(2024年1月16日号掲載)

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